クリーンエネルギーの人材転換は、緑の雇用の総数を数える作業ではない。配管・溶接・電気の職種から低炭素熱源設備や系統運用へ渡る三つの組を並べ、橋渡し訓練の長さ、資格と現場実習、配置までの時間差、地域偏在という設計基準を、日本企業の人材育成の実務に即して整理する。

クリーンエネルギーの人材転換、人手不足なのに経験者が動けないのはなぜか

「クリーンエネルギーは経路で埋める」という見出しと、流れの向きを変えるフラットな配管エルボ継手を配したクリーンエネルギーの人材転換のアイキャッチ画像

要員計画の会議で、GX担当役員が「2030年までに数万人が要る」という資料をめくる。次の頁には研修予算と開講科目数が並ぶ。肝心の問いは、その二枚のあいだに存在しない。その数万人はいまどの職務に座っているのか、その席から新しい設備の前まで何か月かかるのか、その間に何を学び直し何をそのまま使うのか。人材育成の担当者は、この三つの答えを受け取らないまま研修を組む。

クリーンエネルギーの人材転換とは、近接する職務ですでに働いている人を特定のクリーンエネルギー職務へ移すために、出発職務と到達職務を対にして、資格、安全認証、装置習熟、現場配置を一本の経路につなぐ設計作業である。新規採用で欠員を埋める話でもなければ、全社員に脱炭素の教養研修を回す話でもない。

人材育成の専門家として下す判断は一つだ。出発点の特定されていない到達先の一覧は、求人票であって育成計画ではない。 橋渡しの経路は「何人必要か」ではなく「誰が、どこで、何を学び足し、いつその席に立つのか」という形で書かれてはじめて動く。

グリーン雇用の総数は、橋渡し訓練を一時間も設計してくれない

英国では、クリーンエネルギーの直接雇用が2023年から2030年のあいだに230,000人分増える必要があり、間接雇用190,000人分が付随すると試算されている。2025年時点の雇用推計は232,000人である。規模は明確だが、この数字から導ける育成上の判断は一つもない。どの科目を、何日、誰を対象に開くのかが決まらない。

総量の議論が現場で役に立たなくなる地点はいつも同じだ。総量は純増しか語らず、人の移動経路を語らない。英国が重点職務に指定した31職務でさえ、この分野の需要全体の約40%しか説明していない。残りはサプライチェーンや既存のエネルギー産業に散らばっており、その人たちがどこからどこへ動くのかは総量表に現れない。

橋渡しの設計に要る最小単位は、職務一つではなく職務二つ、すなわち出発点と到達先の組である。組が決まってはじめて、担当者は三つを計算できる。そのまま認める経験、新たに求められる資格、現場でしか身につかない習熟。組がなければこの三つは区別されず、区別されなければ訓練期間も根拠なく決まる。

到達先の職務を絞らなければ、出発点は見えてこない

英国のクリーンエネルギー重点職務31は、2025年から2030年にかけて63,000人(71%)増えると見込まれている。ここに退職や離職で抜ける補充需要が年平均3,600人、2026年から2035年までで36,000人加わる。拡大需要と補充需要を合わせると、2035年までに必要な人数は99,000人になる。新規育成だけで賄える規模ではない。

到達先を一つずつ開いてみると景色が変わる。追加需要が最も大きい単一職務は配管・暖房換気の設置修理職で、この分野だけで6,600人が要る。同じ職務の需要を全重点産業で合算すると32,400人になる。

クリーンエネルギーの人材転換における到達先職務ごとの追加需要を示す英国クリーンエネルギー部門の重点職務上位10図表

英国クリーンエネルギー部門の技能需要評価の原文11ページ。紫の棒がクリーンエネルギー部門の追加需要、紺の棒が全重点産業の合算需要である。同じ頁の表は、追加需要の59%がレベル2〜3の資格を、41%がレベル4以上を求めると記している。重点職務全体の平均が38%対62%であるのと逆になっている。

この二つの数字の差が設計の起点になる。到達先の多くは学位ではなく中級の技能資格を求めている。大卒人材を増やす計画では、この隘路に手が届かない。同時に、31の重点職務のうち28が他の重点産業と重なるという事実も併せて読む必要がある。到達先の職務は独占市場ではなく、建設、先端製造、防衛産業が同じ人を取り合う市場である。

配管・暖房換気の設置から低炭素熱源設備へ渡る一つ目の組

最も分かりやすい組は、配管・暖房換気の設置修理職から低炭素熱源設備へ移る経路だ。追加需要が最大の職務であり、既存の人材プールが厚く、作業対象が建物内の配管と熱源である点で連続性がある。

連続性は無資格での配置を意味しない。英国は重点職務に紐づく徒弟制度の標準140のうち20を2022年以降に新設し、その中の建設領域に低炭素暖房技術者の標準が含まれている。既存の配管資格で足りていたなら、新しい標準を作る理由はなかった。近いという判断と、そのまま配置してよいという判断は別物である。

この組で実際に分かれる項目は次のとおりだ。

  • そのまま使うもの:配管の施工と密閉、図面の読解、顧客の建物で働くための作業規律。
  • 学び直すもの:熱源設備の運転条件、試運転と性能確認の手順、低炭素設備に付く安全・品質認証。
  • 確かめ直すもの:既存設備の診断経験が、新しい設備の故障形態にも通用するかどうか。

英国でこの組の標準的な通路はレベル2〜3の建設徒弟である。修了者3,040人のうち59%が重点職務へ入る。同じ水準の継続教育の建設課程は人数規模こそ大きいが、重点職務への進入率は22%にとどまる。同じ主題、同じ水準でありながら到達率が三倍近く開く。講義内容の差ではなく、現場の契約が付いているかどうかの差である。

日本でこの組を組むなら、技能検定と法定資格の試験時期を先に押さえてから研修日程を引く順序になる。OJTで覚えさせればよいという発想では、認証の要る作業に人を立たせられない。

溶接・金属加工の保全から製造設備へ渡る二つ目の組

二つ目の組は、溶接職と金属加工の生産・保全職からクリーンエネルギーの製造設備へ移る経路だ。どちらもこの分野を含む三つの産業が同時に重点職務に指定しており、金属加工の生産・保全職は追加需要の上位10に入る。

この組の難所は近さではなく供給である。製造技術分野のレベル2〜3徒弟の修了実績は、2021/22年から2023/24年にかけて53%減り2,880件になった。同じ期間に建設徒弟は60%増えて11,050件、工学徒弟は29%増えて12,910件である。到達先の需要は膨らむのに、出発点へ入ってくる人が減っている。

そこへ産業間の競合が重なる。クリーンエネルギーと重点職務が最も多く重なるのは建設、先端製造、防衛産業であり、工学系の職務では産業どうしが同じ人材を奪い合う様相が現れている。橋渡しの訓練をよく設計しても、修了者が他産業へ流れればこの分野の人員は増えない。この組では訓練設計より先に配置の約束が要る。

技術面で新たに求められるのは、材料と溶接手順の仕様、そして検査基準である。英国がこの分野の重点職務の上位技能領域に挙げた三つのうち、一つ目は構造物と装置を点検し試験する仕事だ。溶接そのものより、溶接結果を判定する側に重心が移る。

電気・電子職種から系統運用・設備診断へ渡る三つ目の組

三つ目の組は、電気工事・電気設備の職種から系統運用と設備診断へ移る経路である。この組は前の二つと条件が違う。重点職務31のうち他のどの重点産業とも重ならない職務は三つしかなく、その一つが電気・電子職種だ。人材の奪い合いが相対的に少ない到達先ということになる。

需要も大きい。電気工事・電気設備の職種は追加需要で配管職の次に位置し、この分野の重点職務の上位技能領域の一つが電気・電子装置の保守である。地域別に見ると、ロンドンの金属・電気・電子の熟練職種の需要は2023年から2030年のあいだに三倍になると見込まれている。

ただしこの組では、到達先の職務内容そのものが動いている。系統エンジニアと保全監督者の役割は、予測分析、デジタルツイン、アルゴリズムによるモデリングを扱う職へ変わりつつあり、雇用主は伝統的な学位よりも実証できる人工知能の活用能力を前に置く方向へ傾いている。電気の技能にデータの読み取りが重なる組み合わせだ。

橋渡しの訓練でこの組だけを別扱いにする理由はここにある。前の二つは新しい設備を扱う手を作る問題だが、この組は手と画面を同時に使わせる問題だ。予測保全の画面が出した異常の兆候を現場点検の判断へ移す訓練が科目になければ、資格を備えた電気技術者は新しい仕組みの前で判断を止める。

三つの組を並べると、訓練の長さを決めるのが講義時間でないと分かる

三つの組の条件を一つの表で比べると、設計で何を先に決めるべきかがはっきりする。

比較軸 配管・暖房換気 → 低炭素熱源 溶接・金属加工 → 製造設備 電気・電子 → 系統・診断
到達先の需要 追加需要1位、6,600人 上位10圏、産業間競合が激しい 配管に次ぐ順位、競合は少ない
出発点の供給 建設徒弟が増加(+60%) 製造徒弟が減少(-53%) 電気職種自体の需要が急増
新たな資格 低炭素暖房技術者の標準を新設 材料・手順仕様と検査基準 設備診断とデータ読解
隘路 現場契約の付いた実習枠 他産業への流出 到達先職務の定義そのものの変化
期間を決めるもの 認証の要件 配置の約束 装置と系統への接近可否

近さ自体は数値化できる。米国で太陽光発電設備の設置技術者に最も近い非緑職務は農業機械の整備・サービス技術者で近接度0.93、屋根工と断熱施工工は0.80である。一方、英国の環境エンジニアと船舶機関士の近接度は0.60にとどまる。

クリーンエネルギーの人材転換における出発点と到達先の組を近接度で示すOECDの緑職務と最近接代替職務の比較表

OECDのグリーン移行における職務間移動レポートの原文28ページ、表2。右列は各緑職務と技能構成が最も近い非緑職務、右端の数値は0から1のあいだの近接度である。同じレポートは、近接度が高くても追加の専門訓練や職業資格なしには成立しない転換があると明記している。

0.93と0.60の隔たりが、そのまま訓練期間の隔たりになる。ところが実務で期間を決めるのはこの数値ではなく、その上に載る制度だ。認証試験が四半期に一度なら訓練はその周期に合わせられ、実習装置が一台しかなければ定員は装置の稼働時間で決まる。講義を増やして縮められる隔たりではない。

現場実習を外した橋渡しは、資格の発行で止まり配置に届かない

橋渡しの訓練が最もよく崩れる形は、資格取得だけを残して現場実習を外す設計である。予算と日程が圧迫されたとき真っ先に削られるのが実習であり、資格の発行件数は実習なしでも伸びるため、成果表では問題が見えない。

この設計が失敗する理由は到達先の性質を見れば分かる。重点職務の上位技能領域は、構造物と装置を点検し試験する仕事、建物内部の設備を設置する仕事、電気・電子装置を保守する仕事の三つだ。いずれも手で行う動詞であり、教室では遂行の可否を判定できない。

先に見た進入率の差も同じことを語る。レベル2〜3の工学徒弟は修了者5,640人のうち72%が重点職務へ入る。同じ水準の継続教育の建設課程は22%である。徒弟は最初から雇用契約と現場が付いており、継続教育の課程は修了後に自分で席を探す。実習を外した瞬間、設計は後者に似てくる。

実習枠を確保できない企業が取れる次善は二つある。自社設備の定期点検の日程に転換者を正式な要員として組み込むか、設備メーカーの試運転現場へ見学者ではなく作業者として入れるかだ。どちらも安全管理と保険の手当てが先に立つ。この事務を引き受けなければ、実習は工場見学に終わる。

資格取得から配置までの空白が、転換者を最も失う区間である

橋渡しの離脱は訓練の最中には起きない。資格を取ったあと実際の配置を待つ区間で起きる。会社が設備の竣工日程に合わせて配置を先送りするあいだ、転換者は資格証だけを持って元の席に座り続け、その状態で数か月が過ぎると市場からの別の誘いが先に届く。

この区間を管理しなければ補充需要と正面からぶつかる。英国のクリーンエネルギー重点職務で退職や離職により抜ける人数は年平均3,600人だ。橋渡しで人を入れても後ろから漏れる速さが同程度なら、総数は変わらない。育成の成果を修了人数だけで報告すると、この漏れが帳簿に現れない。

需要見通しそのものの不確実性も併せて扱う必要がある。英国の中心シナリオは2025年から2035年で重点職務63,100人の増加(71%)を示すが、代替シナリオは24,700人の増加(35%)にとどまる。同じ産業の同じ期間の見通しが二倍以上開く。転換者に「席は確定している」と言った瞬間、会社は守れない約束をすることになる。

誠実な設計は待機区間を経路の一部として明示する。資格取得から配置までの想定月数をあらかじめ伝え、そのあいだ元の職務でどの課題を担うのかを決め、配置が遅れた場合の代替職務も併せて示す。不確実性は隠すより、管理区間として見せるほうが離脱を減らす。

設備の立つ地域にしか仕事が生まれない構造は、研修予算では埋まらない

橋渡しの最後の制約は地図である。英国で転換圧力を受ける職務のうち、近接職務の空きが十分あってすぐに移れるものは十に一つに満たない。ロンドンは13%程度で、イングランド北東部と北西部にはそうした職務が一つもない。位置を無視して全国単位で計算すると、同じ指標が28%へ跳ね上がる。その差が地域偏在の大きさだ。

同じ産業の中でも職務ごとに選択肢の幅が違う。鉱山技術者と冶金技術者は、技能の重なりが50%以上の非汚染職務を約50持ち、そのうち18が緑職務である。セメント・石材・鉱物加工の機械オペレーターは近い職務が10しかなく、そのうち緑職務は一つもない。二つの職務が共有する代替は三つに過ぎない。「製造業からクリーンエネルギーへ」の一文でまとめられる格差ではない。

地域ごとの伸びも一様ではない。2030年までにイングランド東部の雇用は55,000〜60,000人、北西部は50,000〜55,000人まで伸びる一方、北東部は15,000〜20,000人にとどまると見込まれている。設備の立つところに仕事が生まれ、設備は港湾、系統、用地の条件を追う。研修予算を均等に配ってもこの地理は変わらない。

だからこの経路では、移動の支援が研修の項目と同じ行に置かれていなければならない。フランスのオー・ド・フランス地域圏が電池産業に合わせて地域訓練計画を組み替え、8,000万ユーロを投じて6,600人を訓練すると計画したのも、訓練と立地を束ねた例である。企業の水準では、社宅、通勤、着任時の一時金、家庭事情に応じた配置順の調整が実際の転換率を左右する。

日本企業のクリーンエネルギーの人材転換は、到達先を三つ選ぶことから始まる

日本でこの設計に着手するとき、最初の文書は研修計画書ではなく設備投資計画書であるべきだ。どの事業所にどの設備がいつ入るのかが到達先を決め、到達先が決まってはじめて社内のどの職務から人を引くかを判断できる。

実行の順序は次のように置く。

  • 今後三年の設備計画から、人員が実際に要る到達先の職務を三つに絞る。五つを超えると、どれも経路にならない。
  • 自社と協力会社から、その三職務と作業対象が重なる出発職務を洗い出し、人数、経験年数、保有資格の名簿を作る。
  • 到達先ごとに法定資格と安全認証を確認し、試験の実施周期と申込期限を訓練日程より先に固定する。
  • 実習に使う設備と時間帯を押さえる。設備の稼働計画とぶつかるなら、定員ではなく実習の回数を調整する。
  • 配置の時期と、それまで担う元職務の課題を、転換者へ文書で伝える。
  • 協力会社の人員を含めるなら、契約書に訓練時間と配置後の処遇を併記する。

日本の製造大手はすでに職能資格の体系と職務名簿を持つ場合が多い。問題は、その名簿が現在の職務を基準にしてしか整理されていない点だ。社内公募やリスキリングの制度があっても、行き先の列が空欄では応募が起きない。名簿に「この人が行ける到達先」の列を一つ足せば、育成需要は推計ではなく計算になる。

橋渡しの訓練が機能しているかを見る六つの数字

修了人数と満足度では、経路が動いているかどうかは分からない。区間ごとに人が残ったかを別々に数える必要がある。

  1. 組ごとの進入率:出発職務ごとに、訓練へ実際に入った人数は名簿の何%か。
  2. 実習の完遂率:資格取得者のうち、定められた現場実習の回数を満たした割合はどれだけか。
  3. 資格から配置までの日数:取得日から到達先への配置日まで平均何日かかるか。
  4. 待機区間の離脱率:資格を取ったあと、配置前に退職または転換を辞退した人数は何人か。
  5. 配置後6か月の残留率:到達先へ配置された人のうち、6か月後もその席にいる割合はどれだけか。
  6. 独力遂行までの期間:監督なしで作業を完結できるまで、配置後に何か月かかるか。

六つを一つに合算しない。進入率が低ければ出発職務の選定が誤りであり、実習の完遂率が低ければ設備への接近が塞がれており、日数が長ければ設備日程と訓練日程がずれている。残留率が低ければ処遇か配置条件を見直すことになり、独力遂行が遅ければ訓練で扱った作業範囲が実務より狭かったということだ。原因が違えば処方も違う。

経路は名簿ではなく、一人が渡り切った記録で検証される

この課題をめぐって企業がよく作る成果物は、対象者の名簿と科目の一覧である。どちらも要るが、どちらも経路が動いている証拠にはならない。証拠は一人だ。どの職務から出発し、どの資格をいつ取り、どの現場で何回実習し、何日待ってどの設備の前に立ち、何か月で監督なしに働けるようになったか。それが一行につながったとき、経路が存在すると言える。

その一行が完成すれば、あとは複製できる。同じ出発職務にいる次の人は、前任者の記録から試験の日程、実習枠の確保方法、待機期間の実際の長さをそのまま引き継ぐ。逆に一行も完成させないまま名簿だけを増やせば、翌年も同じ会議で同じ総量の資料をめくることになる。

三つの組を選び、一つずつ最後まで通してみるほうが、三十の職務を同時に扱う計画より速い。橋は広く架けるものではなく、渡り切れるだけの強さで架けるものだ。

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参考文献